イジワル御曹司と花嫁契約
何が起きようとしているのか想像もできないけれど、悪い予感しかしなかった。


なぜか彼に手を引かれて歩いている私に冷たい視線が投げかけられる。


振りほどこうにも、彼の手の力は益々強くなっている。


 私を連れて壇上に登った彼は、司会者の男性に「遅くなってすまない」と小声で言った。


 司会者の男性もマイクに拾われないように小声で「それはいいのですが、そちらの女性は……?」と困惑ぎみに尋ねた。


「それは今から説明する」と言って、司会者からマイクを受け取り、私の手を引っ張って壇上の真ん中へと歩いて行く。


 いやいや私まで真ん中に行くのはまずいでしょ!と思い、渾身の力で手を振りほどこうとするも、逆にその力を利用して私を抱き寄せた。


 冷や汗ダラダラな私とは対照的に、彼は平然とした面持ちでマイクに声を通した。


「遅くなって申し訳ありません。東郷グループ副社長の東郷彰貴です」


 彼の挨拶に盛大な拍手が注がれる。


私は抱き寄せられながら、この男副社長だったんだと心の中で驚いていた。


 拍手が止むと彼は再び話し出した。
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