イジワル御曹司と花嫁契約
「馬鹿!声がでかい。

俺たちが付き合っていることを怪しんでいる奴らはたくさんいる。

あのパーティーの日だって、お前が転んで俺に当たったところを見ていた人は大勢いた。

どう見たって初対面そうだったのに、急に婚約者と紹介したんだから怪しむだろ」


「ああ、そっか」


 自然と小声になっていた。


気楽に構えていたデートが、途端に責任重大に思えてきた。


「それに、何の肩書もなく、何の取り柄もないお前が俺の婚約者だなんて、ぶつかった瞬間を見ていない人でも不審がるのは当然だ」


「何の取り柄もないっていうのは一言余計だから」


 むっとした顔で突っ込んだにも関わらず、彰貴は何も聞こえなかったかのようにスルーした。


……この男はまったく。本当に失礼極まりない。


「まあ、会話までは聞こえないだろうが、傍から見て仲のいい恋人に見えるように演技しろよ」


「分かった。……でもさ、今更身も蓋もないこと言うけど、そもそも私が婚約者って無理があるよね?

それに、デートとかしなきゃいけないのも面倒臭くないの?」


「無理があるのは百も承知だ。

はっきり言ってデートも面倒臭い。

だがな、取引先や懇意にしている人から、ぜひうちの娘と会ってくれと言われて、断ることができずに何回デートしてきたか。

あれほど気を使う無駄な時間はない」
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