最悪な政略結婚を押しつけられましたが、漆黒の騎士と全力で駆け落ち中!
「うわ!?」
「ぎゃあ!」
「ひぃぃ!?」

 突然の衝撃波のような風に、この場の全員があおられた。
 衛兵たちは風に圧されて軒並み引っくり返っていく。

 オルテンシア夫人もクロスボウを風に吹っ飛ばされ、「きゃあぁ!」と悲鳴をあげながらティボー様を下敷きにして倒れた。

 唸る風に千切れた無数の木の葉が真横に飛んでいって、強風にしなる枝が身を折るように踊っている。

「キ、キアラ様!」

 エヴルが体勢を低くして、両腕で風をガードしながら懸命に私に近づこうとしている。

 この異様な風が、私を中心にして吹き荒れているのに彼も気がついたようだった。
 私を中心……というより、この風、私が生み出しているの?

「……ああ!」
 すぐ後ろから、テーラの押し殺したような声が聞こえた。

「テーラ!? 大丈夫!?」

 もしや風のせいでケガでもしたかと振り返った私の目が、驚愕のあまり釘付けになった。

 テーラとイルフォの全身が、あろうことか黄金色に轟々と光り輝いている。
 強烈な輝きに包まれたふたりの姿は、あまりの眩しさに窺うことができない。

「テ、テーラーー!? イルフォーー!?」

 目が潰れるかと思うほどの輝きに向かって、私は髪を風に巻き上げられながら大声で叫んだ。

 ふたりは無事なの!? いったい……いったいなにが起きているの!?
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