最悪な政略結婚を押しつけられましたが、漆黒の騎士と全力で駆け落ち中!
 だって本来なら精霊家の令嬢なんて、どう間違っても王妃になんかなれない身分だ。

 今回のティボー様との婚約は特例処置。
 ティボー様じゃなくてエヴルが王位に就くなら、ごく常識的な結婚相手が選ばれるはず。
 私なんて用済みだ。

 なにより私は……『普通の人間』じゃない。
 こんな特異な血が、国で最も純粋な王室の血統に混じってしまったら、取り返しがつかなくなってしまう。

 でもエヴルが王位に就かなければ、私たちはよくて国外追放。悪ければ死罪にされてしまう。
 でも……。

 私は、エヴルのことが好き……。

 深刻な表情で思い悩んでいるエヴルの端正な横顔を見つめながら、思う。
 花開いたばかりのこの想いは、実を結ぶことなく散ってしまうのだろうか。

 いずれエヴルと別れ別れになってしまうときを思うと、心を焼くような痛みと悲しみが押し寄せて息が止まりそうになる。

 一国の未来がかかっている重大な局面で、自分の恋心なんかを基準に考えている自分が矮小で、情けない。

 わかっているけれど。
 それは、本当に痛いぐらい、よくわかっているけれど……。



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