乙女は白馬に乗った王子を待っている
高橋が連れて行ってくれたのは、ビルの屋上にあるお洒落なガーデンテラスだった。

あちこちに大小様々な大きさの木々を植え込んだ、まるで空中庭園のような所で楽しむ一杯は格別だ。

暑すぎず寒すぎず、心地の良い風が吹き抜け、気持ちよく木の葉を揺らす。

ビールはやっぱり味が違う。

久しぶりに濃いめのドラフトビールで喉を潤すと、ゆり子はとりあえずちょっとだけシアワセな気分になった。

今だけ先の心配は忘れよう。
トシのこととか、仕事のこととか、結婚のこととか……。ビールがまずくなるようなことは考えるまい。


「権藤(ごんどう)はなんで派遣やってたんだ。」

高橋社長〜〜、
なんだ、なんだ、いきなり直球どストレートですか!? 
気分良く飲ませてくれないんすか!?

「……そりゃあ、私だって正社員で働けるものなら働きたいんですけどね。」

「権藤たちの時って超氷河期だっただろう、就職ん時。」

「そうなんですよ。」

「なんの取り柄もない凡人には正社員なんて厳しすぎたよなー。」

「…………。」

「せめてあと5年ずれてりゃな〜。」

「一応、正社員だったんですよ、かなり大手の。」

ゆり子はムキになって訂正した。取り柄もない凡人とか、5年ずれてりゃ、など、黙っておけば言いたい放題だ。

「しかも、東京で一人暮らしでしたから、我ながら健闘した方だと思ってますよ。」

「今も一人で頑張ってんの? やるなあ。」

「いえ、頑張れてなくて、友だちと二人暮らしなんです。」

「なんだー、同棲してんのか。結婚しないの?」

「相手は女です。それに、その『結婚しないの?』はセクハラになりますよ。」

ゆり子がむっとした顔をすると、高橋は屈託なく笑いながらゆり子のほっぺたを軽く触った。

「ほら、眉間にしわ寄せてると、可愛い顔が台無しだよ。」

ゆり子は顔がたちまち火照って来るのが自覚できた。

ゆり子の顔が赤くなったのを見て高橋は静かに微笑む。

まだビールを一杯しか飲んでいないのに、もう酔いが回って来たようだった。


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