乙女は白馬に乗った王子を待っている

「……ああ、悪い、悪い。」

体を起こしながら、高橋は、自分の手でほっぺたをぱんぱんと叩く。
それから伸びをしてゆり子の方に腕を差し出す。

「?」

ゆり子が困惑していると、高橋が「ほら、立たせてくれよ。」と言った。

「……ああ。」

ゆり子は頷いて、高橋の腕をむんずと掴み、ぎゅっと引っ張った。
さすがによれよれの姿だ。

「一旦帰られますか?」

「いや、今日は外に出る予定ないから、このまま働く。」

「ええっ!かなりヒドい格好ですよ? しかも床に寝てたから埃だらけじゃないですか。
 それに、ちょっと臭くないですか?」

「かもね〜、でも、オレの姿を見るのは権藤だけだし。」

「私には気遣い無用ってことですか。」

少し怒気を含んだ言い方に、高橋はすまして答えた。

「違うよ。権藤に気を許してるってことさ。」

「……まっ、またっ。よ、よくそういう事を言いますねぇ、彼女がいるくせに。」

なぜだか、いつもみたいな軽口ではなく、本気モードのゆり子の返事に、高橋は意味ありげな顔をした。





< 157 / 212 >

この作品をシェア

pagetop