乙女は白馬に乗った王子を待っている

その日は訪問者もいなくて、朝から一日中高橋と二人きりだった。
時々電話はかかってくるけど、総じて静かで平和なひと時だ。

訪問者などで中断されることもなかったため、思いがけず通常の業務が捗った。

二人の業務が何となく一段落した夕方の七時過ぎ。

「今日はもう終わりにして、ちょっと飯でも食いにいかないか?」

高橋がゆり子を誘った。
すぐに、さやかのことが頭を過った。

それに……、翔太ともゆっくり会いたい。

「いや、早く帰れるならさやかと食べに行ったらいいじゃないですか。」

「この格好でさやかちゃんには会えないよ。
 それに、いろいろ計画たてる気力もないし。今はとにかくぱぱっと気楽に食べたいの。」

ゆり子は高橋の発言になんだかもやもやする。


   私とは、よれよれの格好でもいいってことか。
   私とは、何の計画もたてない、ってことか。
   私とは、(素敵な店でなく)気楽な居酒屋でいい、ってことか。


ずいぶんと安く見られたものではないか。

ゆり子がぶすっとした顔を隠しもしないで無言でいると、高橋が目をきらきらさせて、ゆり子の顔を覗き込んで来た。

「拗ねるなよ〜、権藤。美味いもの食わせてやるから。」

くたびれきっているはずなのに、そんな雰囲気など微塵も感じさせることなく、極上の笑みをゆり子に向けた。

「……だから、その笑顔は反則ですってば。」

不機嫌なまま応じる。

「女はオレのこの笑顔には弱いもんな〜。よし、行くぞ。」

高橋は、ゆり子を促した。


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