乙女は白馬に乗った王子を待っている

「社長!山根さんが、採用、決まったんですって、今、連絡がありました。」

「ああ。」

「何ですか、その白けた返事は。もっと喜んだらどうです?」

「だって、先方から、山根のことを気に入ったから採る予定だ、ってすでに聞いてたからさ。」

高橋は事も無げに言った。

「な、え、え〜? じゃ、どうして教えてくれなかったんですか?」

「権藤が一緒に興奮してくれた方が、山根が喜ぶだろうと思ってあえて黙ってたの。
 それに、権藤も山根にはすごく思い入れがあったみたいだから、山根から直接報告受ける方が嬉しいでしょ?」

本当に高橋は鋭い。
何を考えてるのかよくわからない一方で、高橋はゆり子や派遣の子をよく見ていつも的確な対応をする。

派遣の仕事の提案も、時々意外な企業や職種を勧めることがあるのだが、これがまた、しっくりいくことが結構多く、高橋には独特の人間観察のスキルがあるのだった。

「今回は、本当に権藤のお手柄だなあ。
 山根が奮起したのは、何と言っても、権藤のおかげだもんな。ありがとう。」

高橋はまっすぐゆり子の目を見つめて、優しく笑った。

「……社長。」

「何だ?」

「あの、私、すごく嬉しいんです。山根さんの採用も無事に決まったし、そのことで山根さんが喜んでくれたのも嬉しいし……、
 社長が、私のおかげだって言ってくれたことも嬉しいし。……何て言ったらいいか、その、私……。」

ゆり子は言葉に詰まって、それ以上何も言う事ができなくなった。

高橋は、ゆり子の頭をくしゃくしゃと無造作になでた。

「うん、これからも権藤を頼りにしてるよ。」

「はい。」

気がつけばゆり子はじわっと目に涙をためていた。

仕事でこんな気持ちになったのは、大学を卒業してから初めてのことであった。





< 176 / 212 >

この作品をシェア

pagetop