乙女は白馬に乗った王子を待っている
「社長!山根さんが、採用、決まったんですって、今、連絡がありました。」
「ああ。」
「何ですか、その白けた返事は。もっと喜んだらどうです?」
「だって、先方から、山根のことを気に入ったから採る予定だ、ってすでに聞いてたからさ。」
高橋は事も無げに言った。
「な、え、え〜? じゃ、どうして教えてくれなかったんですか?」
「権藤が一緒に興奮してくれた方が、山根が喜ぶだろうと思ってあえて黙ってたの。
それに、権藤も山根にはすごく思い入れがあったみたいだから、山根から直接報告受ける方が嬉しいでしょ?」
本当に高橋は鋭い。
何を考えてるのかよくわからない一方で、高橋はゆり子や派遣の子をよく見ていつも的確な対応をする。
派遣の仕事の提案も、時々意外な企業や職種を勧めることがあるのだが、これがまた、しっくりいくことが結構多く、高橋には独特の人間観察のスキルがあるのだった。
「今回は、本当に権藤のお手柄だなあ。
山根が奮起したのは、何と言っても、権藤のおかげだもんな。ありがとう。」
高橋はまっすぐゆり子の目を見つめて、優しく笑った。
「……社長。」
「何だ?」
「あの、私、すごく嬉しいんです。山根さんの採用も無事に決まったし、そのことで山根さんが喜んでくれたのも嬉しいし……、
社長が、私のおかげだって言ってくれたことも嬉しいし。……何て言ったらいいか、その、私……。」
ゆり子は言葉に詰まって、それ以上何も言う事ができなくなった。
高橋は、ゆり子の頭をくしゃくしゃと無造作になでた。
「うん、これからも権藤を頼りにしてるよ。」
「はい。」
気がつけばゆり子はじわっと目に涙をためていた。
仕事でこんな気持ちになったのは、大学を卒業してから初めてのことであった。