乙女は白馬に乗った王子を待っている
マンションの玄関まで来ると、翔太と別れて、さやかとゆり子は自分たちの部屋に戻った。

翔太は405号室で、さやかとゆり子は406号室だ。

「さやかってさ、翔太のことどう思ってる?」

ゆり子に聞かれて、さやかは顔をきょとんとさせた。

「どうって……別に。」

「……ふーん。でもさ、翔太って結構良いヤツじゃない?誠実そうだし、真面目だしさー、仕事もちゃんとやってる、って感じで、結婚するならああいうタイプ、いいと思わない?」

「だけど、宅配便の運ちゃんだよ。こう言っちゃあナンだけど、高卒だしさー。
 結婚するなら、スーツ姿の似合う人がいいよね〜。イケメンの出来る専務とかさ。」

やっぱそれか。

さやかよ、己を知った方がいいと思うぞ。30過ぎのフリーターと結婚したがるイケメン専務なんかいないってば!

「結婚は妥協したらダメだよ、ゆりちゃん。どこかにさやかのことを待ってくれてるステキな男性が必ずいるはずだもん。」

 ……ってお前は中学生か! 今日び、JKでももっと狡猾で現実的だぞ!

「運命の人がバラの花束を持って婚約指輪をさやかの指にはめてくれるの。それだけは、絶対譲れないよね?」

いやいや、100歩でも1000歩でも譲るし。

ゆり子は小さなため息をついた。

「でもさ、さやか、万一、あのね、万一、運命の人が現れなかったらどうするの?
あたしたち、将来は下流老人目指してまっしぐらだよ?」

さやかは目をぱちくりさせて、無邪気な顔をゆり子に向けた。

「頑張って働いているし、ゆりちゃんなら絶対大丈夫だよ?」

だから、その根拠のない自信、止めてよ〜。

あたしは派遣、アンタに至ってはフリーターなんだよ、さやか。もう少し危機感持とうよ。(怒!!)


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