乙女は白馬に乗った王子を待っている
そうなのだ、何か、ムカつくのだ。
エレベーターを待ちながら機嫌良くスマホをいじる高橋が何となく鼻につく。
「いつもにも増して機嫌がいいですねぇ、どうしたんですか?」
嫌味の一つ二つ言わなければやってられないような、イライラとした気分だった。
完全な八つ当たりだ。
「べつに。ただ、さやかちゃんと会ってメシ食うだけだよ。」
「…………」
それで、そんなに機嫌がいいんだ?
「権藤こそどうかした?」
スマホから目を離す事なく口にする。ゆり子の話を聞こうとする気など全くないというのがアリアリの態度だ。
改札でPASMOをすっと当てて通過してしまうかのごとく、ひっかかりのない無関心な言い方がどうにもこうにも気に食わなかった。
「べっっっっつに、なんっっっっっっにもありません!」
怒った声で答える。
高橋はふっと顔をあげた。
一瞬呆気にとられた後、くっくっくと笑い出した。
「それ、明らかに何かあるだろ? 何だよ、どうしたんだよ、気になるから言えよ。」
初めてゆり子の方に顔を向ける。
言えるか。
私だって何でムカついてるかよく分からないんだから。
「……強いて言えば、社長が機嫌が良いからでしょうか。」
高橋はさらに呆れたように言った。
「何だ、そりゃ。今日はまた、一段と毒があるなぁ。ほらほら、機嫌直して笑ってみ?」
高橋は両手でゆり子のほっぺたをちょこっとつまんで軽く引っ張った。
ぷーとなったゆり子の顔を覗き込む。
その距離10センチ。
ゆり子の視界は高橋の顔でいっぱいだった。
あ……、もうダメだ。
「ひゃーーー、やめてくださいよー。社長。」
それだけ言うと、後は大粒の涙をぼろぼろとこぼして泣き始めた。
一旦涙をこぼしてしまうと、涙と一緒にゆり子の感情も外に流れ出てしまったようで、いくら止めようとしても止まらない。
ふえっ、ふえっ、と顔を真っ赤にして子どものように泣きじゃくっていた。