乙女は白馬に乗った王子を待っている
会社が近づくにつれ、心臓の音が大きくなっていくような気がする。
家を出る時に、30分遅刻します、と高橋にメッセージで伝えた。
今までのところ、高橋からの返信はない。
怒ってるだろうか……。
それとも呆れられたか?
公私混同するな、と怒鳴られるかもしれない。
もしかして、さやかと別れて社長も落ち込んでるだろうか……。
ドアの前で、深呼吸を一つして、なるべく落ちついた動作ができるよう、自分に言い聞かせた。
「おはようございます。」
高橋は、さやかの顔を見ると、いつものように機嫌良さそうににこっと笑った。
「おはよう。もうすぐ、登録希望者が来るから、悪いんだけど急いで準備してくれるかな。」
「……はいっ!」
必要以上に張り切った大きな声になっていた。
それを皮切りに怒濤のような一日が始まった。
その日に限って本当に忙しくて、余計なことを考えるヒマも、高橋と話をするヒマも全然なかった。
高橋はお昼過ぎからずっと外に出ていたから、夜、高橋が帰って来たとき、初めてゆり子は午後中ずっと仕事に没頭していたのだと気がついた。
一日、仕事に没頭してみれば、夕べのことなんて、なんか現実味のない夢のようなぼんやりした出来事にしか思えなくて、
「お帰りなさい。」
とゆり子が社長に挨拶した時、二人ともすっかり普段通りの態度になっていた。
………と思っていたのに。