乙女は白馬に乗った王子を待っている
「昨日は荒れ狂ったんだって、あの後。さっき東城から聞いたよ。」
と、高橋がニンマリ笑って言うものだから、ゆり子まるで水を失った鯉みたいに口をぱくぱくさせて言葉を失う。
顔中から湯気を吹き出して、蒸気機関車のようだった。
「……いえっ、あの、それは。」
高橋は、ゆり子の反応を確かめながら、ゆっくりと言葉を返す。
「権藤、夕べは、すごい愛の告白をしたもんなー。『社長の一番になりたいんです。』とかなんとか言っちゃって。」
「!!!!」
はっきり言うな! はっきり!!
「愛の告白」なんてあからさまな言葉を口にするから、ゆり子はもう酸欠状態の鯉である。
「本当?」
「だから、それは、……え?」
「本当に、オレの一番になりたいと思ってるの?」
「いや、あの、それは、その……」
恥ずかしすぎる。
高校生じゃあるまいし、三十過ぎて、片思いの相手にストレートに思いを打ち明けるなんて無理だろ。
このトシになると、脚を開くよりも心を開くほうがずっとハードルが高い。
昨晩のことは、それはそれとして、大人な対応でさらりと流して素知らぬ顔をして欲しいのに、こんなしらふの時にど真ん中で回答求められても困りますやん。
高橋は明らかに不満そうな息をもらした。
「何だよー、歯切れ悪いなー。オレ、今、さやかちゃんに振られて落ち込んでるから、付け入るなら最大のチャンスだよ?」
高橋は完全に面白がっている。
やっぱり、この余裕がムカつく。
「付け入る……って。何なんですか、それ」
「チャンスは前髪しかないって言うだろ?モノにしたいなら、ここぞ、というときにははっきり言わなきゃ。」
「……何をですか。」
「言いたいこと。今なら、聞くよ?」
そう言って、高橋は、この上ないほど甘い笑顔を見せた。