乙女は白馬に乗った王子を待っている
最高か……、最高の一夜を過ごしたのか、そりゃ、良かった。うん、めでたい。
じわりと目に涙が浮かぶ。
ゆり子は夕べのことを思い出して最低の気分だった。
「遊ばれないように気をつけなさいよ、高橋社長、結構あちこちの女を口説いてるみたいだから。」
「全然そんなことないよ〜。夕べもすっごく紳士的だったし。明日デートする約束もしちゃったし。」
「デート?」
「うん、横浜までドライブして、何か美味しいもの食べに行こう、って言ってるの。」
「……そう、良かったね。」
ゆり子は力なく呟いた。翔太の顔が浮かんでくる。
最低、最低、最低!
夕べ、あんなこと、しなきゃ良かった……。
次の日、高橋は、最高に気合いを入れたさやかをベンツで迎えに来た。
翔太とゆり子はいそいそと出かけるさやかをベランダから茫然と見送る。
「ホントにベンツで迎えに来ちゃったね、王子様が。」
「あーあー、オレに勝ち目ないよなぁー。
高橋ってモロさやかちゃんの理想の男、って感じだよなー。ハデな薔薇の花束持ってたの、見た?」
「二人そろって失恋かあ。」
「二人?」
「うん。翔太と私。」
「………ゴメン。」
「いいよ、謝らないで。翔太がさやかのことを好きなのは知ってたしさ。まあ、気持ちを伝えられてすっきりした。」
「やっぱり、ゆり子さんは男前だなー、かっこいいよ。」
にこりと笑う翔太の笑顔が、ゆり子の心に突き刺さる。
痛くて悲鳴をあげそうだった。