乙女は白馬に乗った王子を待っている

まさしく、ドライブ日和だった。
空はからりと晴れ気持ちのいい風を吹かせている。
高橋はベンツのキーを入れた。車はスムーズに発車する。助手席には、派手な薔薇の花束が置いてあった。

最初は、中学生を相手にしているのかと思った。

金曜日の夜、さやかが滔々とあこがれのシチュエーションの話を語り出した時、今どき、こんなアラサーがいるのか、と高橋は素直に驚いた。
どこをどう育ってくれば、こんな無邪気で世間知らずの大人になれるのか。

「さやかちゃんてさ、今まで男の人と付き合ったことある?」

つい、好奇心にかられて高橋が尋ねた時、さやかは頬をピンクに染めて、俯き加減で首を横にふったのだった。
その仕草があんまりあどけなく可愛かったので、つい、

「じゃあ、僕と付き合ってみる?」 

と口から出てしまったのだった。

ほんの出来心だった。
しかし、その言葉をきくやいなや、さやかは耳まで真っ赤になった。
上目遣いで高橋を見つめると、そっと小さな声で「…はい」とささやく。あとは恥ずかしそうに無言で下を向いているばかりだった。

その初々しさが高橋には新鮮だった。


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