乙女は白馬に乗った王子を待っている

さやかのマンションの戸を叩くと、いかにも理想のデートを意識したかのような出で立ちのさやかが現れた。

うすいブルーのワンピースに紺のカーディガンを羽織っている。
ゆるくカールさせた巻き髪と綺麗に整えられたネイルにも気合いのほどが見て取れるというものだ。

高橋はちょっと迷ったすえに、麻のジャケットを着てくることにしたのは正解だったと思った。

戸口に出て来たさやかに薔薇の花束を渡すと、華やいだ声をあげた。

「わあ、ありがとうございます。」

やっぱりどんなにベタだろうが、ひねりがなかろうが、薔薇の花束は間違いがない。
華やかで香りのいい薔薇の花束を貰って嬉しくない女などいないはずだ。
特にさやかは男付き合い超初心者だ。高橋は自分の判断に自信をつけた。

なのに……、

「何ですか、コレ。」

さやかの後ろからむっつりした声が飛んで来た。

ゆり子だ。

ゆり子は、さやかが手にした花束に一瞥をくれると吐き捨てるように言った。

「社長、こんなことにお金を使ってないで、私の給料、ちゃんとお願いしますよ。」

高橋の会社の現状をよく認識しているゆり子は、何かにつけてカネの心配をする。最も、会社の心配をしてくれてるのか、自分の給料の心配をしているのかは、ちょっとよくわからなかったが、多分、後者だろう、と高橋は思った。……にしても、薔薇の花束ぐらいで、会社が倒産してたまるかい、と少し可笑しくなる。

「ごもっともです。でも、彼女を喜ばせたいと思う男心もちょっとは理解して下さい。」

高橋は、横でくすくす笑うさやかの手を取ってマンションを離れた。



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