乙女は白馬に乗った王子を待っている
月曜日、ゆり子はドアの前で呼吸を整えた。
高橋の顔を見て、冷静でいられる自信がない。そっとドアを開けると、上機嫌な高橋の声が飛んで来た。

「おはよう。」

「おはようございます。」

それだけ応えるのが精一杯で、ゆり子はむっつりと黙ったまま自分の席についた。
わざとらしくパソコンを立ち上げ、忙しそうにしていると、高橋が、ちょっと意地の悪い事を言うときにする、ハンプティダンプティのように口をにやりとさせながら、ゆり子に近づいて来た。スキップせんばかりの軽々とした足取りである。

「気になる?」

「何がですか?」

「だから、昨日のさやかちゃんとのデート。」

その手には乗るもんか。

「別に気になんてしていません。休日に誰と何をしようと社長の自由ですから。」

「あ、そう、それなら良かった。」

高橋は、ふーんといった顔で、それきりその話を止めた。


……ああ、気になる!


ゆり子は全然集中できなかった。

もうすぐ、登録者の研修の人が5人もやってくる。午後は、登録希望者の面接のアポが3件入っていた。
それに、留守電やメールでの問い合わせに返事もしなければいけなかったのに、全然準備がはかどらない。

高橋の方をちらりと横目で見ると、楽しげな顔で登録者リストを見ながら、営業の電話を次々とかけまくっていた。



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