乙女は白馬に乗った王子を待っている
その日の夕方、ゆり子の作成した登録者聞き取りメモに目を走らせると、高橋は明らかに不満そうな声をあげた。

「こんな大雑把な聞き取りじゃなくて、もっと、どんな職種を希望しているのか、とか、将来何をしたいのか、詳しく聞くように、っていってるじゃない。
『事務』だけじゃ、どんな仕事をどういう風にやりたいのか、全然わからないでしょう。それに、権藤の所見も書いてないじゃない。」

「……はい。」

「今日は、ミスも多いし、何か上の空だし、しっかりしてくれないと困るよ?ウチの数少ない戦力なんだからさあ。」

「……申し訳ありません。」

ゆり子は唇を噛んだ。

「明日はビシッとやってくれよ。」

それだけ言うと、高橋は急に表情を緩めてゆっくりと笑った。
笑ったときの高橋の目元は柔らかく、口の端を少しだけあげると、いっそう優しい顔になる。

さやかもこの笑顔にノックアウトされてしまったのだろうか。

「じゃ、お疲れ。」

「……あの、社長。」

柔らかな微笑みに誘われるように高橋に言葉をかけたが、後が続かない。

「何?」

「……いえ、何でもありません。」

結局さやかとのデートについて一言も口に出せないまま事務所を後にした。

ゆり子が帰宅したとき、さやかはすでにバイトに出た後だった。


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