雨音の周波数
 終わってしまった恋、終わらしてしまった恋、忘れたい恋、そんな言葉が似合うようになってしまった圭吾との恋。それだけの時間が経ってしまった。

 今、圭吾との恋を思い出しても、もっと他の行動を取っていればもう少しいい恋愛ができる女になっていたんじゃないか、と考えてしまうときがある。

 仕事を終え、帰りの車の中、そんなことを漠然と考える時間が増える。それもこれも、あのメールが原因だ。

 〈匿名希望 東京都 石井 圭吾〉のメールが来ても、こんなふうに心をざわつかせることがなくなる日は来るのだろうか。きっと私が圭吾との恋を超える恋でもしない限り無理だろう。そして、そんな相手を見つける時間なんて今の私には存在しない。

 仕方がない。うまくやり過ごしていくしかない。大人になっちゃったな、自分。

 信号待ち。夕暮れの空を見上げる。少し遠くには桜の木が見えた。四月上旬、桜の花びらはほとんど散ってしまっている。

 今年も花見しなかったな。

 お正月、バレンタイン、ホワイトデー、花見、そういった世の中のイベントに合わせて企画を考え番組を作る人間が、そんなイベントと無縁というのも皮肉なものだなと思う。

 子供の頃、イベントは絶対だったのに。本当に大人になってしまったと改めて実感した。

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