雨音の周波数
 お母さんは「そうね」と言って、段ボール箱に荷物を詰めた。

 お父さんが一人で仕事と家事とおじいちゃんの面倒を見るのは無理だと、私もお母さんも二つ下の妹もわかっていた。

 家事がこの世で一番苦手なことと豪語するお父さんが「単身赴任する」と言ったときはびっくりした。私のことを考えて言ってくれたのだろうということは、すぐにわかった。

 私も今回は素直にそれに甘えようと思った。受験先は変えたくなかったし、圭吾と離れるのも嫌だった。でも、おじいちゃんが入院となれば、そうはいかない。

 お母さんは申し訳なさそうに、私と妹に引っ越しと転校の話を切り出した。状況が状況なだけに私たち姉妹は頷くしかなかった。

 ただし、私は条件を付けた。志望大学は変えない。大学からは一人暮らしをしたいと。

 両親――特にお父さん――は不安そうな顔で私を見た。そこで一人暮らしにもう一つの条件をつけた。大学の寮に入ると。

 これで両親は納得してくれた。私は最初からそのつもりだった。ただ、最初から寮に入ると言って反対されてしまうと次の手がなくなる。だから最初はアパートで一人暮らしという条件を出したのだ。本音を言えばアパートで暮らしたかった。でも親を説得するには、これが一番いい方法だった。

 進路のこと、引っ越しのことは一段落した。私にとって最大の問題は圭吾にいつ引っ越すことを言うかだった。

 お互い大学に合格すれば半年後にはまた一緒に居られる。なら、すぐに言おうと思っていた。でも今の圭吾にそれをまだ言ってはいけないような気がした。

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