雨音の周波数
 数分後、夏川さんは三人を連れてきた。一人は広報の前田さん。その後ろに恰幅も笑顔もいい佐藤社長。社長の横には圭吾がいた。

 なんでいるの……。

 圭吾と一瞬視線が合い、すぐに外された。

「いつもお世話になっております。番組プロデューサーの山岸です」

 山岸さんは社長に名刺を渡した。そして隣にいる圭吾にも渡す。

「初めまして。佐藤の秘書をしております。石井です」

 圭吾は流れるような所作で名刺を交換した。

 私も佐藤社長と名刺交換をし、圭吾の前に立った。こんなふうにまた会うとは思わなかった。

「初めまして。石井です」

 圭吾の"初めまして"は、小さく胸を抉った。

「初めまして。放送作家の小野です。よろしくお願いします」

 名刺を受け取り、字面を見つめた。


"ニッポン香味株式会社
 秘書課 石井 圭吾"


 名刺をしまい「何かあれば、声を掛けてください」とニッポン香味の皆さんに言い、なるべく離れた場所に座った。そして放送で読むメールやファックスの選別に取り掛かった。ラジオは最低限の人数で作っているため、誰もが放送中は忙しい。

 その状況は目に見えてわかるので、社長はなにか聞いてくることはなく、台本を見ながら現場を眺めていた。

 そして少し余裕があるときに私や山岸さんが声を掛けて、社長からの質問を受けた。

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