雨音の周波数
【8】真実の先へ
 どんなに気持ちが重くても朝はやって来る。そして仕事は待ってくれない。生放送は絶対にやりきらなければならない。

 昨日のことで感情の歯車がずれてしまったらしい。私に向けられた表情は、圭吾の仕事用の顔なのか、それとも私への本心なのだろうか。きっと本心だろう。

 誤解が解けたから全てが綺麗な思い出になったと思った。それは違った。むしろ全てが崩れ去った気がする。圭吾は全てを消し去ったのだろう。

 恋愛は厄介なものだ。他人、知人、友達、恋人とステップアップして関係を築いても、恋人でなくなったら一つ下の友達ではなく他人に戻る。

 私たちも同じことなんだ。私が勝手に勘違いをして消えた日から他人だった。今更、他人だったことに、どうしてこんなに胸を締め付けられるのだろう。


 仕事は仕事と切り替えて『to place』だけに意識を持っていく。放送を終え、来週の放送についての打ち合わせを済ませてから、届いているメール、ファックスを確認する。最近は手紙やハガキも増えている。ネットが普及している中、あえて手の掛かるものを選んでいただけるのは非常にありがたい。

 そろそろ今月のラジ恋の台本を作らないといけない。パソコンでラジ恋宛のメールを選り分けながらメールを読む。

 一つのメールが目に留まった。


〈いつも楽しく拝聴しております。
 実は仕事の関係で『to place』を聞くことができなくなりました。毎日楽しみにしていたので、少し残念に思っています。
 素敵な時間をありがとうございました。

 ラジオネーム KEIGO〉

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