love square~四角関係なオトナ達~
「ヒマリさ」


「なぁに?」


「なんで急にフッ切りたくなった?」


「もう…誰も傷つけたくないの…」


「ヒマリにそう言われると、オレは傷つくね」


「…え?」


「なんかそれって、2人を振るための口実っつーか、利用される道具みたいっつーか、さ。ヒマリがオレを選ぼうと傾きつつあるのは嬉しいけど、理由づけが違う気がするんだよな」


「そんなこと…!」


「ナイ、って言い切れる?」


そこまで言うといく兄ちゃんは姿勢を変えてあたしの前に移動して、視線を絡ませた。


「気持ち、まだオレだけとか、オレでいっぱいじゃねぇだろ?」


「あたし…」


「まだそれでいいんだよ。オレは今日、ヒマリがここを選んで来てくれたことだけで十分嬉しいから、さ」


「いく兄ちゃん…」


「送ってくのメンドーだから、ヒマリ、今日はここに泊まってけ。オレ、ソファーで寝るから」


「ん…」


ソファーで背を向けるいく兄ちゃんはこんなに近いのに、すごく遠い気がした。


手を伸ばせばすぐそこ。


でも、伸ばせない今に距離を感じる。


…そういうことなんだよ、ね。


あたしはまだ見えない気持ちのまま、誰かの所へなんて行けないんだ。


座れそうでぐるぐる回ったままの椅子とりゲーム。


「おやすみ、いく兄ちゃん」


いく兄ちゃんのお布団の匂いを胸いっぱいに吸い込んで、あたしは目を閉じた。


夢には誰も出てこなかった朝だけど。


寂しさは感じなかった。
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