love square~四角関係なオトナ達~
⑥選べないジャム
朝、部屋に戻ってすぐ、工藤にメッセージを送った。


“パパの傍にいたいので、来週いっぱいまでお仕事休ませてもらいます。   姫葵”


できないなりにご飯支度とか、入院の準備を手伝いたかった。


お昼にパパが戻って来る前に作らなきゃ、って、張り切るキッチン。


スマホで料理サイトとにらめっこをしながらの手作りご飯。


包丁もろくに握れないあたしの作れそうな物…検索してみては冷蔵庫の中身を捜索。


出来上がったのは。


ぐちゃぐちゃのお豆腐と乾燥ワカメの御味御汁。


手で一口大にちぎったキャベツとがんもどきで煮浸し。


ザク切りカマボコと、これまた手でちぎった大葉をマヨネーズで和えて。


スクランブルエッグ。


ご飯を盛って仕上がったのは、ギリお昼。


事務所に顔を出したくなかったから、ケータイでパパを呼び出す。


「姫葵、できたのか?」


「パ…パ…!?」


大袈裟に飛び上がってしまったのは、パパだけじゃなかったからで。


部屋に入ってきたのは計4人。


パパはもちろんだけど、ふてくされ気味の春流、目も当てられないほど痛々しく顔を腫れ上がらせた工藤、仕方なくやって来てやった体のいく兄ちゃん。


「なんでっ!?」


「みんなで食った方が旨いだろ。ホラ、全員座れ」


「で、でもっ!4人分なんてない…し…」


「どうせ米は多めに炊いてるだろ。姫葵も座れ」


「う、うん…」


あたしを含め、奇妙な5人でのダイニング。


「姫葵の初手料理だ。めけがけも置いてけぼりもナシ。さ、食おうか」


全員“いただきます”の一言もなしに少しずつしかないおかずとご飯を交互に口に運ぶ音だけが、テーブルの上で不規則に鳴る。


「みそ汁、少し濃いけど旨いぞ」


「カマボコ!コレは酒と一緒でもいいな」


「キャベツの煮浸し、母さんも作ったっけな」


なんて、空気を読まないパパだけが独り言のように時々呟く。


「姫葵、旨かったぞ」


って。


パパはあたしの頭を撫でて、


「工場か気になるから、先に行くな。お前ら、姫葵争奪戦にあまり熱を入れるなよ」


それだけを残してダイニングを後にした。
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