溺れる恋は藁をも掴む
 そっと、アキは私の手を繋いだ。
また、ドキッとする。

 「三浦、今、何考えてた?
 辞めたいなら、今だぞ!
今なら引き返せるから……」

 その時、涼しい風が通りぬけた。
これから暑さを迎える季節がやって来る。

 今日、アキとこうしている不思議な時間。
コンプレックスをこのまま抱えて、ずっと生きてゆくのは辛い。

 何度同じ季節を迎えても、このままでは心に痼りを残すだろう……

 好きだったアキに抱かれるのは、夢のような話だ。

 いくら妄想好きな私でも、アキとここまでの妄想は出来てない。

 ただ隣に居れたら良かった。

 気の利いた会話も要らない。

 アキの綺麗な横顔を独占出来た教室で、ずっと見ていたかった。


 アキに影があるように見えるのは、時折、遠くを見ていたから……

 寂しさを心底にしまい込んだ瞳が、それを悟られないように、無意識に彼をそうさている様にさえ見えた。

 寂しさを埋めるように笑って、自分の居場所を探しているような?そんな感じがしたんだ。


 勘違いかもしれないけど……
私にはそう見えた。


 「戻らないよ……

 ーー私はアキにドキドキしてるからーー

 そう思えない人とはセックスは出来ない。
ずっとこのままじゃイヤ!
 それが最高の理解者になる理由」

 だからこの手を離さない!


「何だか、俺もドキドキしてきたよ…
三浦を抱きたいって思う気持ちでいっぱいになってきた」

 アキはギュッと私の手を握る。



 それならいいよ
問題ない。

 セックスを前にした男女は、余計な言葉は要らないんだよ…
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