溺れる恋は藁をも掴む
 噴水公園に着いてアキを待った。

 3分待ったら、重そうなビジネスバッグを手にぶら下げて、スーツ姿のアキが走ってきた。


 「待った?」

 「ううううん、着いたばかりよ」

 「食べたいものあるか?」

 「……アキ」

 「えっ?」

 「ーーアキが食べたいーー」

 勇気?うううん、本心。
こんな夜は、あなたを素直に求めたいの。

 アキは驚いた顔をしたけど、笑って、私の頭を撫でた。

「俺も華が食べたい!」

 心地よい秋風がムードを高めた。

 今宵も満月。


 月を二人で眺めた。


 「狼が恋しくなった」

 もう一度、勇気!
言葉を濁して、本心を込める。

 「狼はさ……
きっと、満月に会う女を好きになったんだろうな……」

 「えっ!!」


 「100年に一度しか言わない!」

 「えーっ!
もう一度、言ってよ!
勘違いもしたくないから……」

 「言わない!」

 アキは少し悪戯な瞳をして、笑顔になる。
その顔にキュンとして、私の心にある全ての恋心が飛び出していきそう……


 だけど……

 「意地悪!!」

 そう言って恥じらうのは、乙女心。

 【バタン】とアキの重い鞄が地面に落ちたと同時に、そっと抱きしめられて、アキと私の唇が重なった。

 ーー暫し、思考停止状態ーー

 「もう、100年後しか言わねーからな!
俺はどうやら華が好きらしい……




 ………今、ちゃんと聞こえたよ。



 「私もアキが好きよ」


 「不思議だな……華の事を考えていたら電話が来て、会いたいって言われたら、無性に会いたくなって、愛しく感じて……華しか考えられなくなってた」





 ーーこの瞬間を忘れないよ、アキーー

 
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