これを『運命の恋』と呼ばないで!
現実3
搭乗した機内で、私の隣に座る先輩は浮かない表情をしていた。



「奏汰せ……さん」


意識してないと、つい先輩と呼んでしまいそうになる。


「何?」


ムッとしている様に見えるのはいつものこと。
への字口をした先輩は、いつも以上に唇を下げた。


「具合……悪いんじゃありません?」


顔色が良くない。
日焼けが薄くなったナッツ色の肌だから分かりづらいと言えばそうなんだけど。


「大したことない……多分、気圧のせいだ……」


搭乗手続きの際に、飛行機酔いの話を二人でした。
車にも酔いやすい人は、飛行機にも酔ってしまうんだそうだ。




『奏汰…さんは大丈夫?』


車に酔うという話はお義父さん達から聞かされていた。

幼い頃から助手席にしか座れず、ドライビングスクールでも何度か運転できなくなる程の酷い酔い方をしたことがあるらしい。


『酔い止めは一応飲んでる。機内に入ったらすぐに寝るつもりだし、到着したら泊まる予定のホテルは目の前だから大丈夫。心配はいらない』



強がっていたけれど、今の表情は冴えない。
エコノミークラスは人の行き来が収まらず、埃っぽい空気が漂っている中で休めと言っても、ゆっくりしていられないのが現況だ。


「アイマスク借りてみたらどうですか?視界を暗くした方が眠れるんじゃ……」


シートベルトをするのも苦痛そうな彼に話しかけるけど。


「いい。とにかく少し黙っててくれ!」


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