これを『運命の恋』と呼ばないで!
海外支社があるのはシンガポール。
英語が伝わる国だから日常会話さえ出来れば大丈夫だと言われた。


(それは話せる人の場合であって、私はほぼ話せないからムリ……)


搭乗する前から読んでた英会話の本を読み返す。
頭の固い私には、全ての単語の意味が分からない。



(頭痛い……具合悪くなりそう……)


本を閉じて目を伏せた。
程なくして始まった緊急時のガイダンスを聞き、いつの間にか眠り始める。


キャビンアテンダントの歩く足音が途絶えた。
機長のアナウンスがボソボソと聞こえて間もなく、機体のエンジン音が高まった。


ぼぅっとした視界に、エアポートが映し出される。
次第に振動が高まり、スピードを徐々に上げていくのが分かった。


(もうすぐ離陸するのかなぁ……日本とももうお別れなんだなぁ……)


見納めておこうと視線を走らせた途端、機体は急に浮かび上がった。


「わっ……!」


ぐっ…と腹部が締まる様な感覚に陥った。
シートベルトが苦しくて、思わず先輩の様子を伺った。



「ん……」


眠ってる先輩は眉間に皺を寄せている。
急激な気圧の変化に勘付きながらも目を開けようとはしてない。



(そうよねぇ。目を開けたら酔うって言ってたもんね……)


できれば目覚めておいて欲しかった。
一緒に空を眺めながら、日本の景色にお別れを言いたかった。


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