よるのむこうに
私は小さく呻きながら洗濯物を干していた。
洗濯ばさみを開こうとするたびに痛みを感じて中断する。
私は手をさすりながら気分転換に周りを見回した。
エレベーターのないマンションの五階なんて家賃が安くなければ家を決める際の選択肢にも入らなかったが、夏になってみると夏の強い日差しの中を風が吹き抜けて意外といいものだ。
駅から続く長い商店街がまっすぐにのび、そこを歩いてくる人の様子が見える。
働いているときはこんな景色をじっくりと眺めたことはなかった。
私は残ったわずかの洗濯物を腕にかけて、ゆっくりと洗濯物の皺を伸ばし始めた。関節が腫れているので布を手で挟んでたたくことはできない。
リウマチになるまでは簡単にできていたことが難しい。指先に力を入れるとなると関節が疼く。
けれど痛いからと体を動かさなければ関節の可動範囲がどんどん小さくなって動けなくなってしまうし、天馬に自分の下着を触られるのもいやなので、時間をかけてでも洗濯だけは人任せにしなかった。
二年も同棲しておいて洗濯物を触られたくないなんて、自分でも少しおかしいような気がするけれど、いやなものはいやなのだ。恥ずかしいし、あの乱暴な男にレースなんか触らせたら「うっかり」でショーツを引き裂きそうだ。
タオルをカーテンのように下着の周りに干して、やっと部屋に戻ろうとしたその時、マンションの駐車場から大きなクラクションの音が聞こえた。
そちらに目をやると、天馬が見慣れない車の運転席から手を振っていた。
「あ……」
「天馬」が、「見慣れない車」に、乗っている。
私は顔から血の気が引いていくのを感じた。
どこにそんな金が。