よるのむこうに

いやな想像が次々と浮かんでくる。


「天馬っ、ちょっとそこに座んなさい」

「は?先にシャワー浴びてくる。あっつくってさー」


彼はTシャツの前で顔を拭った。見事な腹筋がちらりとのぞいたが、今日という今日は筋肉ではごまかされない。


「駄目!先に話を聞きなさい!!」

「なにをキレてんだよめんどくせぇ女だな……」

普通キレるでしょ!犯罪なんて!
今は私も休職中という名の無職なのだ。裁判費用だの示談金だのといわれたって出せるかどうかわからないじゃない。

「あのねえ天馬、世の中には人生を投げ出したくなる瞬間もある。誰も助けてくれなくて悔しくって泣きたくなる夜もある。
でもねえお天道様に恥ずかしいことだけは」


説教を始めようとしたその瞬間、座卓の上に置きっぱなしにしていた私の携帯が鳴った。


天馬は眉間に皺を寄せて私が携帯に手を伸ばすよりも先に携帯をとった。彼は携帯のディスプレイを確認して私に携帯を投げてよこした。


「……『彰久くん』か。お前まだあいつと連絡取ってんの。
……おっと、電話ならここで話せ。こそこそすんな」


天馬は私が彰久君と連絡を取っていた件についてまだ根に持っているようで、私はあれ以来ずっと携帯をチェックされている。いつも着信があるたび携帯チェックを阻止しようと携帯に手を伸ばすのだが、必ず天馬が先に私の携帯を掠め取っていく。動物並の反射神経がこんなことで無駄に発揮されている。


こそこそなんかしてないわよ、
私は天馬をにらんでから携帯に出た。
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