よるのむこうに
「夏子ちゃん?あーよかった。出てくれた」
久しぶりに聞く彼の声はやはり華やぎがあって軽やかだった。
「……彰久君、その節はどうも……」
彰久君には前回の見苦しい修羅場を見られて以来だったので、私は恥ずかしさに頬を染めた。
「ああ、うん。それはもういいんだけど、ちょっと時間がないから手短に話すね」
元々そういう性質なのか、それとも恥じているであろう私に気を使ってくれたのか、彼はこだわりのない口調で話し始めた。
「今日、俺の会社から天馬に金を貸したから、あいつが新車に乗ってたりダイヤの指輪を買ってきても金の出所で心配しないでねって伝えておきたかったんだ。
夏子ちゃんはあいつが大金を持ってたら不安になるだろ。
それから、貸した金は給与天引きで返してもらうから夏子ちゃんは絶対にたてかえないでね。俺、夏子ちゃんからの返済は一切受け付けないつもりだから」
一息に説明されたその話を理解するのに頭が追いつかない。
天馬が、なぜ彰久君の会社から借金を。
ほぼ無職の自称パチプロに大金を貸すということの危険性を、彰久君は十分に理解しているのだろうか。
それともこれは天馬によるカツアゲの一種だろうか……?
「……え、あ。あれ、彰久君のお金なの」
「ふふ。今頃天馬に説教してる頃かなって」
まるで私達の部屋の中を見ているかのような察しの良さだ。
「ごめんね、天馬が迷惑かけちゃったんだね」
「いや、迷惑じゃないよ。あいつを働かせるいい口実ができたから。
天馬に貸した金は仕事上の投資だと思ってる。
それでね。これからあいつにガンガン仕事を入れるから夏子ちゃんにも寂しい思いをさせるかもしれないけど……なるべく短時間で家に帰すから許してね。」
「あ……そういうこと……。うん、私は平気だから。うん、ありがとう」