よるのむこうに
通話を切って、私は呆然と天馬を見つめた。
この男は自分がどういう約束で借金をしたのかわかっているのだろうか。
友達から借りたと認識しているようだが、返すあてはあるのだろうか。
「天馬、借金したの?」
彼はばつがわるいのか頭を掻いた。
「あいつ……、なんでも夏子に報告するなよ……」
「どうしてまた急に車なんて」
「車でどっか行こうぜ。
俺ら二人で出かけるっつったらスーパーか商店街だからな」
「旅行だったらレンタカーで事足りるじゃ、」
言いかけて私は自分の足に目をやった。
そして天馬を見ると、彼はもう立ち上がってバスルームに行こうとしている。
「天馬」
「いっしょに入るか?指が痛いんだったら髪くらい洗ってや、」
振り返った天馬は大きく目を見張った。
こみ上げる涙がほろりと頬にこぼれた。
「……どうしてこんなことするの……」
「いいだろ、別に。
せっかく時間ができたんだから旅行って何もおかしくないだろ」
私は目元を拭いながら首を横に振った。
「……私のためでしょ、私の足がこんなだから、だから、借金までして……」
天馬なんかにそんなことされたくない。
あんたは自分のことだけ心配してればそれでいい、少しでもいいから自分のために働いて、一人でも生きていけるようにするほうがいい。少し前までそう思っていた。けれど今の私は休職中で、そんなことすら言えない。
こんな思いをしたくなかったから別れを決めたというのに……天馬はわかってくれない。