よるのむこうに

「そこは惚れ直した、じゃないの?」

彰久君にそう突っ込まれてしまい、
私は恥ずかしさにその場から逃げ出したくなった。何を口走っているんだ私は。彰久君は天馬の事務所の社長だし、その上ここは天馬の職場だ。


「今のナシ。絶対天馬に言わないで」

「言わないよ。あいつが調子に乗ってまたもとのあいつに戻ったら俺が困る」


その時、それまでずっと華やかな微笑を浮かべていた彰久君の表情が堅くなった。

彼の目線の先を追うと、ひときわ優雅できれいな男性がスタジオに入ってくるのが見えた。
男性の上品なスーツは遠目に見てもはっきりとわかるほどぴたりと彼の肩の動きに添っていて、一目でオーダーメイドだとわかる。年齢は私と同じか少し上の三十半ばくらいだろうか。すらりとした体型なので彼単体で見ればそれほど背が低くも見えないが、モデル……にしては少し背が低いように見える。デカ過ぎる天馬を見慣れているせいで目がおかしくなっているのだろうか。


男性はスーツの女性と少し談笑していたかと思うと、彰久君を見つけてこちらにやってきた。


「こんにちは。申し訳ありませんが少し彰久と話をさせていただいても?」


彼は私に軽く会釈をして微笑んだ。
私は彼の優雅な笑みと貴族的だと思うほど品のよい笑みに圧倒され、ただ無言で頷いた。

この人、きれいだし優しそうだけど、側にこられるとなんだか落ち着かない。
彰久君はただただ圧倒されている私を見て眉をしかめた。


「景久(かげひさ)、それ以上彼女に近づくな。怖がってんだろ」
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