よるのむこうに
それはおそらく私を指しているのだろう。
ここには垢抜けたおしゃれな人しかいないので、私のような地味なだけの人間が妙に人の目に付いてしまうようだ。
「マネージャーかなんかじゃない?
彰久君の事務所、今は結構忙しいらしいよ。モデルだけじゃなくて社員入れようかなって言ってたよ。アタシ行っちゃおうかなァ」
「あんた自分の仕事どうすんのよ」
「仕事って言ったって私ら一回の撮影で数千円でしょ。ノーギャラの街角スナップとそう変わんないもん。
肩書きはモデルでも生活を支えてるのは販売員のバイト。いっつもお金なくて安定とは程遠いしさ。
こんなことやってるよりも彰久君の会社で社員やるほうが親も安心するだろうし出来るならそっちのほうがよっぽどいいよ。
読者モデルからタレントになるとか考えた時期もあったけど、もう24だよあたし」
「まだ24でしょ。あきらめるのは早すぎるんじゃない」
私はトイレの個室の中で息を殺していた。
立ち聞きをしたいのではない。そういうわけではない、のだ、が……、自分やその周辺の人のことを噂されているところに堂々と出て行く勇気もない。
完全に出て行くタイミングを逃してしまった。
彼女らが早く出て行ってくれればいいなと思いながらそっと個室のドアを細く開け、外を窺う。
鏡の前にすらりとした女性二人が立っていた。
ピンクのピンヒールに長い足、小さなお尻。背中にたらした髪はアッシュブラウンにところどころ金色のハイライトが入っていて、いかにも雑誌に掲載されていそうな都会的な若い美女が右側に立っている。
そして同じくすらりとした長い足で似たような体型の、金髪ショートヘアの女性が左側に並んで立っていた。
二人ともすでに十分きれいだというのに、熱心に鏡の前で化粧をなおしている。
「あー……天馬、今はどこに転がり込んでんだろ。最近仕事もよくやってるみたいだし、一人で暮らしてんのかな」
ピンクのピンヒールがため息混じりにそう呟いた。