よるのむこうに


私と天馬が初めて出会ったあの夜、私はすでに天馬がそれまでまともな暮らしはしてこなかったであろうことは察していた。
ちゃんと起きて仕事をして帰ってくる、そういうこととは無縁の男だと分かっていた。

だから天馬には何も期待していなかった。たまに顔を見せてくれたら、ちょっと話をしてくれたらそれでよかった。
彼のそういう部分を受け入れることができる人間でなければ彼が受け入れてくれないのも分かっていた。


わかっていたはずなのに、他人の口から聞かされる天馬の暮らしの片鱗は私が思っていたよりも生々しく、そして無理やり飲み下すには苦かった。

今、天馬の「元カノ」がもらした天馬の姿は私の知っている天馬とはズレがある。

家で見る天馬。
モデルの天馬。
そして、他の女性から見た天馬。

もしかしたら私の見ている天馬は私が「こうにちがいない」と思う天馬に過ぎず、実際の彼は私が思うよりももっと悪い人なのだろうか。

あんなに若くてきれいなお嬢さん相手に、あとあと恨まれるほどつれない仕打ちが出来る男。
あんなにきれいな人にそんな扱いが出来るなら、天馬にとっての私は……。
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