よるのむこうに

私は自分の髪の毛をつまんだ。
カットはしているが、基本的に髪は染めていない。

教師になりたてのころは周囲の信頼を勝ち得るためにとあえて茶色がかった髪を黒く染めた記憶がある。
けれど後の数年はただただ「めんどくさい」それだけの理由でずっと黒髪のままだった。
カラーをしてしまうと頻繁に染め直しをしなければいけないし、仕事が忙しすぎてカラーリングで傷んだ髪に配慮する気持ちの余裕もなくなっていったからだった。

今は無職で時間はあるはずなのに、身なりに構うということをすっかり忘れた私は時間があってもそんなことは思いもよらない。

こんな華やかな世界に身を置いている天馬や彰久君はそんな私をどんな目で見ていたのだろう、あのスタジオにいた人たちは私をなんだと思っただろう。



膝の色がすっかりぬけてしまった自身のデニムを見下ろすと、裾のほうがすりきれてほつれているのが目に入った。


ひとつがおかしいと思い始めると次々とおかしい部分が目に付く。
フラットサンダルの靴底が足のゆがみに合わせて斜めに目減りしていること、爪の甘皮が残っていること、いや、爪に何も塗っていないことさえ恥ずかしくなってきた。


スタジオにつれてこられてまだ二時間もたっていないのに、私はすでに自身をぺしゃんこにされてしまった。
それまでの私は教師として、自立した社会人としてそれなりに自信を持っていたし、女としてもそれほどひどい挫折を味わうことなく生きてきた。
それなのに、モデルがうろうろするスタジオに少し顔を出しただけで自分の姿が恥ずかしくなっている。私は自分で思うよりもはるかにもろかったらしい。
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