よるのむこうに
田舎の喫茶店の窓際に座っていると、彰久君に紹介されたおしゃれなカフェをどうしても思い出してしまう。
2500円のナントカ水を使ったカフェの味はどんな風だっただろう。
もう私の中であの美しい店内の色は褪(あ)せ、希少な水を使ったコーヒーの味など舌の上に残ってはいない。あの世界は私にとっては夢の中の出来事だったかのように現実味を失ってしまっている。
二年でこれなのだからもう数年たてば、私は彰久君の顔すら思い出せなくなるのだろうか。
「すごくきれいになっていて、人ちがいかと思ったよ」
ほぼ15年ぶりに顔を合わせる石田君は、あまり変わっていなかった。男性はあまり化粧をしないからそんなものかもしれない。
軽めのお見合いと聞いてきたのだが、彼の脇では三歳くらいの女の子がしきりに何かしゃべっている。親である石田君は彼女の言うことがわかるのか、適当に相槌を打っている。
「きれいなんて。私もう32になるんやよ」
「いや、そんでも(それでも)垢抜けたって言うんかな、きれいになったよ」
高校生のころならばとてもストレートにそんなことを口にできなかった石田君が、私の容姿を褒めている。女を、褒めている。
この十年、彼もいろいろあったのだろう。実際、顔の印象はあまり変わらないものの彼の顔には疲れが見えた。
私が女の子をじっと見つめているのに気付き、彼は取り繕うように言った。
「ごめんな、今日はお袋が美和を預かってくれる予定やったんやけど、急用で預かれんようになって。次に会うときは預けてくるから」
「ううん、いいよ。大丈夫」