よるのむこうに
美和ちゃんは喫茶店の紙ナフキンにボールペンで熱心に螺旋を描いている。
まだ絵らしい絵を描くほど成長してはいないのだろう。甥の小さかったころを思えば随分と大人しい子だ。
「かわいい子やね」
石田くんは口では邪魔そうに言ってはいてもやはり娘がかわいいのだろう、私の言葉にぱっと顔を輝かせた。
「そうなんよ。俺の妹にも良く懐いてるし、事務所の事務員さんにも愛想がよくてぐずることはあんまりないんや。美和は人懐こいんやよな」
どんな事情があったのかは聞いていないけれど、こんな小さな子がそれまで一緒にいた母親と離れて暮らすのは苦しいことに違いない。子どもなりに自分を守ろうと必死になれば、できることといえば大人に好かれるよう努力することくらいだ。
人見知りをしたって不思議ではない幼さで初対面の私にもニコニコと笑顔を向け、親が話をしていれば黙って絵を描いている。甥の太一が三歳くらいだったころを思うと、美和ちゃんは大人しすぎるほど大人しい。
「美和は本当に手がかからんのや。だからこうしてキッズスペースのないところでも安心して連れてこられる」
「そうやね、いい子やね」
「この子やったらすぐ新しいお母さんにも馴染むと思うんや」
新しいお母さん、その言葉に私は視線を石田くんに移した。目があった途端、石田くんは頬を赤らめた。
「いや、もしもの話」
「うん。
そういえば駅ビルにブルーバッグズができたんやね。昔は何もなかったけど、駅ビルができてからすごく便利になった」
私は少し気まずくなってしまった雰囲気を変えようと、話題を変えた。
「そうそう、ここだけ見ると都会みたいやよな」