よるのむこうに
高校生の時、石田くんは大人しく地味なタイプだった。何度か話したこともあったけれど、彼は特に私に関心があったということもない。ただのクラスメイトでしかなかった。そしてその時、私達はクラスメイトとして対等だった。
けれど、今の石田くんはどこか私の機嫌をとるような話しかたをしている。駅ビルの話を始めてやっと元同級生らしい反応が返ってきた。
実家が手伝ってくれるとは言え、税理士の仕事をしながらこんなに小さな女の子を育てるのはきっと私の想像を超えた苦労があるだろう。
15年前の薄い縁を頼って私とお見合いをするくらい困っているのだ。
彼は今、小さな子を抱えてとても困っているし、将来が不安なのだろう。
この地域に限らず、行政から片親家庭への支援は豊富とはいえない。特に父子家庭で、親と同居している石田くんの家庭では育児についての行政サービスは少ないだろう。
もし石田くんの両親のうちどちらかが病気になったらとても困ったことになる。現に彼の母親が子どもを預かれなくなったら石田くんは今のように子どもを自分で連れ歩くしかない。そんなことが頻繁に起これば仕事に差し支えることも出てくるだろう。
「駅ビルに今話題の中国料理の店ができたんよ、味はいいし、飲茶もある、今度一緒にいってみよう」
彼の提案に私は眉を上げた。
中華料理は嫌いじゃない。飲茶も楽しそうだ。高校時代の同級生と懐かしい話をするのも悪くはないし、美和ちゃんは手がかからずかわいいのでもちろん一緒に食事をするのは大歓迎だ。
しかし、これはただ食事に行くという話じゃない。同級生相手ではあるけれど、これはお見合いだ。
一回目はともかく、二回も会うとなればそれは結婚について前向きに考えているという意思表示になってしまう。