よるのむこうに
彼は苦しげに呻いた。


「……裏切り者……。最後にこんな酷い真似をするくらいなら、俺なんかに構わなきゃよかったんだっ……。
俺は、勝手に愛されてると……期待して、」

その後は声にならないようだった。天馬は私の胸に額を押し当てて、泣いているように見えた。
強くて、無神経で、繊細な感情にも愛にも無関心な顔をしていたくせに、天馬はまるで初恋に破れた幼い人のように失恋をやり過ごすすべを知らない。


「ごめん。もう仕事だから……行くね」


本当は、天馬の涙が乾くまで彼の悲しみに寄り添いたかった。そうできたらとどれほど強く思ったか。
けれどそれは私の役目ではない。
この二年でいつしか身に馴染んだリウマチという病気がまた憎くなる。
この病気のせいで、私だけではない、私を愛する人も泣かせてしまう。

私はのしかかるような体勢の天馬を押しのけようと、彼の胸を押した。しかし彼はびくともしない。


「あの、……天馬?仕事に遅刻するから……」

「何が仕事だ……。二年も探してやっと見つけたんだぞ……。
行かせるわけねえだろ。俺も、カタが着くまでここから動くつもりはねえよ」

「天馬、勝手に出て行ったことは悪かったと思ってる。別に天馬を軽んじたとかそういうことじゃなくて、私があんたの重荷になると思ったし、私もそのことを追い目に感じながら生きていくのはいやだったからお互いのために、」

あのときの私の気持ちをまくし立てようとしたけれど、天馬のきつい瞳は揺るがない。
何を言おうと今の天馬は私を恨んでいる。
私はため息をついた。言い訳はやめよう。


「……私に、どうしろっていうの」
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