よるのむこうに
デスクの上には問題集や電話、バッグなどが置かれている。なんの変わったところもない。どこの学習塾でもよく見かける光景だ。
「これ……?」
「このバッグのキーホルダー。俺が買ってやったやつだろ」
正確にはキーホルダーではなくチャームなのだが、確かに彼の言うとおり、ブランド物でもなんでもないどこでも買えそうな私のバッグにはコットンパールを連ねたチャームがぶら下がっている。頂き物にこんな事を言うのはいけないが、このチャームだってごく普通のもので、特に珍しいものではない。
「これだけ!?」
どこにでもありそうなバッグチャームを見つけただけでわざわざ東京から100キロ離れた街までやってきて、塾の前で張り込みをしたのかこの男は。
その行動力と無謀さに呆れていると、天馬は小さくため息をついて私に視線を向けた。
「んー……まあな……。
なんつうか、口で説明するのは難しいけどわかるんだよ。このバッグの置き方とか、バッグのジッパーがいつも少しだけ開けっ放しになってるところとか」
私は思わず顔を赤らめた。私はいつもバッグからすぐに鍵が取り出せるように、バッグの一部を開けっ放しにしておく癖がある。いや、癖というよりもこれは一人暮らしの部屋の前でごそごそと鍵を探すのは防犯上大変よろしくないから、意図的にはじめたことなのだが、……やはりそんな事情を知らない人から見れば私の癖は少しだらしなく見えるだろうか。
「天馬、探偵になれるんじゃない?」
めったに天馬を褒めることのない私だが、さすがにこの観察眼の鋭さには驚いた。
しかし天馬はそんな言葉を聞いても嬉しそうな顔一つ見せない。
「人一人探すのに二年もかかってたら探偵なんてやってけねーんじゃねーの……。ただの運だろ」
天馬はそう答えると、もうこの話への興味を失ってしまったようで、再びヘッドフォンをつけて映画に見入った。
私はため息をついた。