よるのむこうに
「呼び出してくれるのは嬉しいよ。
俺は夏子ちゃんと話すのが好きだし、女の子と過ごすのは楽しい。
でもさ、今の夏子ちゃんは楽しい話をしようとしているんじゃないよね。女の子として俺と向き合っているのでもない。
ちゃんと話してくれない?今夏子ちゃんが抱えていること全部」
「そんな。たいしたことじゃないんだ。よくある話で、」
彰久君はうんざりした様子で手をあげて話を遮った。
「そうじゃなくてさぁ……」
彼は十秒ほど目を伏せ、やがてゆっくりと落ち着いた口調で話し始めた。
「俺の話をしていいかな。
ただ信用しろと言うだけじゃ、君は俺を信じないよね」
「彰久くんの話?」
「うん。少しだけ付き合って」
私は小さく頷いた。
「俺が同じ大学のやつらと同じように就職せずに会社を作ったのは、就職活動が面倒だったってのもあるけど、それだけじゃない。会社員は金を稼ぐには効率が悪いと思ったからだ」
私は小さく頷いた。
「金持ちになりたいって、俺は心底そう思う。卑しいと思うかい?」
私は小さく首を横にふった。
今の世の中では「そこそこのくらしができればいい」という欲のない人が増えている。それ自体は悪いことじゃない。足るを知るということも人間には必要だ。
でもそういう考えの人しかいない世界にはわくわくするような革新は起こらない。
もっと、もっとという欲があるからこそ人は優れたものを生み出せるのだ。
「昔は俺も、金で買える物にたいした価値なんてないって思ってた。でも今の俺から見ればこれこそ驕りだったと思う。
俺は金持ちになりたい。もともと金持ちの家に生まれた人間だけど、そうじゃなくて、自分の自由になる金がたくさん欲しい。そしていつでも自由に動ける身でいたい」
彼が私に何を伝えたいのかまだいまいちわからない。けれど、私は頷いた。自由なまま何者にも縛られないまま金持ちになりたい。わがままだけれど誰にだってある願望だ。
彰久君は話を続けた。