わたくし、愛しの王太子様に嫁ぎますっ!
今日の行程も山道が続く。
走る馬車の中からは川が見え、リリアンヌはふと昨日の青年“レイ”を思い出した。
見た目は上流層を感じさせるのに、魚を素手で獲るなど野性的で、断りもなく顔に触れてきた失礼な人。
許婚のアベルにもまだ触れられていないのに。そう思えばますますムカッとする。
それにあんなことがなければ転びそうになることもなく、リリアンヌの中でレイの印象は最悪だ。
『名を覚えておく』などと言っていたが、どういうつもりなのだろうか。
もう会うことはないだろうし、会っても関わるつもりはない。
もやもやと考えているリリアンヌとは対照的に、向かい側の長椅子に座るメイドの二人は華やいでいる。
そんな二人にリリアンヌが気を向けると、メリーは同行騎士の中に気になる人ができたと言って頬を染めていた。
「昨夜、うっかり木の根につまづいて転びそうになったんです。そうしたら、近くにいらした騎士さまが抱き止めてくださったんです!それも片手で軽々と。しかも『大丈夫か?』って優しく声をかけてくださって!!」
きゃーと、赤い頬を手で隠すメリーの言葉を受けて、ハンナはしきりに頷いて同調する。
「うんうん、分かるわ!そうよね、騎士さまの腕に支えられると、ドキッとするわよね!昨夜メリーの様子が少し変だったのは、そんなことがあったからなの!?」