夫の教えるA~Z
賑々しい2人がドアの向こうに去ると、病室は急に静かになった。

「……ちぇっ、あいつ。
頼んでもないのに余計な検査しやがって」

ドサッとベッドに横になった彼は、拗ねた口調で悪態をつく。


「今夜だって、俺は帰りたいっつったのに。
おい、あんなの気にしなくていいんだからな」

ぶっきらぼうに吐き捨てる。

私といえば返事もせずに、ぼんやりと用紙に視線を落としたままでいる。

晩秋の空は既に黄昏れ、だだっ広い病室を西日が黄色に染めている。


沈黙が横たわった。


「トーコってば!」

彼に促されて、私はようやく我に返った。

「あ……」
私はとある決意を固め、クルリと彼に向き直った。

「あの、アキトさん。
……今日は私からひとつ、貴方に申し上げたきことがご、ゴザイマス」

「ああ?……何だと」

彼の声色が低く変わる。

う……怖い。
部下時代、散々刻み付けられた恐怖に条件反射で身が縮む。

しかしここで負けてはいけない。
私はキッと前を見据えた。

「そうです」

「な……何だよ
ま、まさかさっきのユウナちゃんのコト?」

「…………」
私が真顔で黙り込むと、彼は意外に素直に返事をした。

「分かったよ、聞くよ。
ちゃんと聞くからさ……何?」
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