夫の教えるA~Z
「一人はイヤだ。泊まっていけ」

一瞬、彼が何を言っているのか分からなかった。

「や、やだなあ。
アキトさんってば、冗談ばっかり。
そんな事出来る訳ないじゃないですか~」

笑いながら手をスカートから離そうとした手を、更に強く握りしめる。

「い、いいじゃないか。他に誰もいないしさ」
「バカなこと言わないで下さいよ。ダメです、だーめっ!」

キッパリ告げると、彼はショボンと肩を落として、イジイジと掴んだ裾を弄ぶ。

「……病院は…嫌いなんだよ。
オバケが…ユウレイがでるかも知れないじゃないか」

「はあぁ?
はいはい、分かってますよ。
そんなこといって、どうせまたからかってるんでしょ?
じゃ、また明日……って、離して下さいよ」

彼はまだ、裾を握ったままでいる。


「もう、子供じゃないんだから。
いい加減に離して…

って……まさかアキトさん、本気で?」

彼は青い顔で頷いた。


「ほ、ホントなんだっ。
中2の時、盲腸で入院した時に
見たことあんだよ!
そうだ、確かその時もこの病院だった……

…って、何だよその目は」


前言撤回。
やっぱアホだわ、この人。

「ハァ~~、あのねアキトさん。
だとしても仕方ないデショ?
病院のね、キマリなんですよ、キマリ。
大人の付き添は出来ないの!
じゃあね、オヤスミなさい」

私はようやく彼の手をスカートからひっぺがした。
これ見よがしに “バイバイ” と手を振ると、踵を返して歩き出す。


するとその背に、彼がポツリと呟いた。


「………そういえば…さっきのユウナちゃん。今日は準夜勤だって言ってたっけ…」

「なっ……」

何だとぉ!

色を無くして振り返った私に、彼は悪辣に微笑んだ。

何て卑怯な。
コイツ……サイテーだ。
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