夫の教えるA~Z
「………何言ってんのよ、トーコちゃん」

あれ?

身体が動かない。
よく見ると、左足を夏子姉さんに掴まれていた。

「ちょっと離して……わっ…」

私はサーッと青ざめた。


夏子さんの目が

座っている。


「トーコちゃんがそんなだから、アイツが調子に乗るんじゃない!
アイツはね。
アナタが優しくするもんだから、舐めきってんの、甘えてるの!

少しは懲らしめてやらなくちゃ…
いーい?
トーコちゃんは
私がいいと言うまで帰っちゃダメよ」

「でで、でも……」


夏子姉さんは私の両肩を揺り、さらに強い言葉を放った。

「アキトの横暴に負けちゃダメ!
怒んなさい。
これまでの怒りをヤツにぶつけなさい、
怒るのよ!

言いたいことも言えない仲なんて、本当にダメになっちゃうからね⁉

ってかね、
私のこの苛立ちはどうなるのよっ‼」

「ははは、はいっ!」

彼女の剣幕に、私は思わずビシッと姿勢を正す。

「ゼエゼエ…
そ、そうよ。その意気よ、
たまにはアイツに、やり返してやらなくちゃ。

……ふっふっふ。
アイツ、トーコちゃんが居なかったらきっと慌てるわよ~」

やり返す。

私が、彼を?

……出来るかなぁ。


「それから……」
「あ!」
私のバッグを拾うと、ケータイ電話を取り出した。

「預かっとく。
絶対あいつ、シツコク掛けてくるから。
慌てさせちゃお、ね?」

「やだなあ、返してくださいよ。
掛けてきませんよ。だって彼は……」

私のことなんか…



私は電話を取り返そうと手を伸ばした。
しかし彼女は、それをヒョイと頭上に掲げげてしまった。

「ダーメ!
もしあのバカから掛かってきたら、今のトーコちゃん、絶対出ちゃうから。

…せいぜい探し回って貰おうじゃないの。

私に任せて。
何もかも、ね?」

彼女はニマッと悪辣に笑んだ。


あれ?
もしかしてこの人、この状況、楽しんでない?
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