夫の教えるA~Z
 転がっている間に板は外れ、しかもあちこちぶつけたらしい。
 私は太腿のあたりをさすりながら、ヨロヨロと片膝ついて起きあがった。

「アキトさんも大丈夫…
アキトさん?___アキトさん!」

 一目見て、私は驚いて叫んだ。

 ダラリと雪面に垂れ下がった両腕。
 引っ掛かった大木の根に身を預け、ぐったりと蒼白な顔をしている彼。

 そういえば落ちるのが止まった時。
 あれだけ大きな音がしていたのに、私はさほど痛くなかった。
 彼が私のクッションになってくれたに違いない。
 私は慌てて飛び上がり、彼の両肩を掴んで揺さぶった。

「ちょっと……そんな…やだ…
 シッカリして!アキトさん、アキトさんっ」

 パチパチと頬を強めに叩いても全く反応がない。

 ああ、まさかそんな…
 
 私は、恐る恐る彼の口元に手を翳した。


 息を

 していない。
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