夫の教えるA~Z
 うう…放り出されてしまった。

 トーコは、広いダブルベッドにドサリと身を投げた。

 普段ならもう、とっくに眠りにつく時刻。
 けれど日付が変わっても、彼が入ってくる気配はない。

 結婚以来、殆ど仕事を家に持ち込まないアキトさんだからすっかり忘れていたけれど。上司時代の彼はいつもあんな風で、私にはさっぱりツレなかった。
 でも、私とちがって仕事には凄く真摯でさ。毎日パリッとスーツを着こなして、スマートに指示出しする姿は、本当に格好良くて__

 きゅん。

 あれ、ナニコレ?
 急に胸が苦しくなって…ダメだよ私、何故このタイミングで発情してるの?

 久しぶりの一人寝の夜。
 トーコはアキトの枕に顔を埋め、力一杯彼の残り香を吸い込みながら、涙に暮れるのだった。
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