夫の教えるA~Z
ここから先の、書類がアキトさんの手に無事わたるまでの経緯《いきさつ》は、私トーコが後日、当事者達から聞き出したものである。
情けないことに、その間私は、ベンチ脇の植え込みにしゃがみこんで、沸き上がる吐き気を懸命に堪えていたのだ______
以下、夏子さん談。
さて、私と別れ、会社のエントランスに向かった夏子さんは、迷わず支社室に辿り着くことができたそうだ。
「ちーす、お邪魔するねー」
「あ、大神さん。お疲れ様でーす」
受付でまず驚いたのが、名乗ってもいないのに向こうから名前を呼んでくれたこと、だそう。その後も、会社の人達がやたらと親しげに挨拶してくれるのを訝しく思いながらも、夏子さんはやすやすと先に進んでいった。
彼女が支社長室の前に着いたとき、その部屋の扉は開放してあったそうだ。
彼女は言い訳ばかりにコンコンと二度、扉を叩き、
「すいませーん」
と一応声を掛けながら、中に入った。
中に、1人男がいた。アキトさんではなかった。贅沢な皮張りのソファではなく、パイプ椅子に腰かけてソワソワ辺りを見ていた男は、彼女を見るなり跳ねるように立ち上がった。
「あのー書類…」
「わわっ、大神さんっ。あ、書類届いたんですね、わー、良かった…って、え?!ええっ」
情けないことに、その間私は、ベンチ脇の植え込みにしゃがみこんで、沸き上がる吐き気を懸命に堪えていたのだ______
以下、夏子さん談。
さて、私と別れ、会社のエントランスに向かった夏子さんは、迷わず支社室に辿り着くことができたそうだ。
「ちーす、お邪魔するねー」
「あ、大神さん。お疲れ様でーす」
受付でまず驚いたのが、名乗ってもいないのに向こうから名前を呼んでくれたこと、だそう。その後も、会社の人達がやたらと親しげに挨拶してくれるのを訝しく思いながらも、夏子さんはやすやすと先に進んでいった。
彼女が支社長室の前に着いたとき、その部屋の扉は開放してあったそうだ。
彼女は言い訳ばかりにコンコンと二度、扉を叩き、
「すいませーん」
と一応声を掛けながら、中に入った。
中に、1人男がいた。アキトさんではなかった。贅沢な皮張りのソファではなく、パイプ椅子に腰かけてソワソワ辺りを見ていた男は、彼女を見るなり跳ねるように立ち上がった。
「あのー書類…」
「わわっ、大神さんっ。あ、書類届いたんですね、わー、良かった…って、え?!ええっ」