ツインクロス
「…ごめんな、冬樹。強引に誘うような真似して…」
思い切り眉を下げて、申し訳なさそうに雅耶が話し掛ける。
「…ホント強引だよ」
チラリと横目だけで雅耶を見遣ると、冬樹は再び外の景色に視線を移した。
そんな冬樹の冷たい反応に、雅耶は肩を落とす。
「長瀬にどうしてもって頼まれてさ…。家まで勝手に教えちゃってごめん。…マズかったか?」
「…別に、長瀬ならいいけどさ…」
遠くを見詰めながらも、返ってくるその言葉に。
それはそれで、何だか複雑な思いを感じずにはいられない雅耶だった。

(だが、まずは冬樹の機嫌を直す方が先決だ…)

雅耶は、思わずへこみそうになりながらも、再び冬樹に話し掛けた。
「お前が、海水浴乗り気じゃないっていうのは聞いてたんだけどさ…。でも、たまには息抜きも良いんじゃないかなって思ったんだ。お前…毎日のようにバイト入ってるし…」
あんなこともあった後なのに…という言葉は、己の内に呑み込んだ。
「やっぱ、折角の夏休みだし…皆で一緒に遊びに行きたいって思うじゃん…」
すると、冬樹はチラリ…と視線をこちらに向けた。
「オレだって別に…出掛けるのが嫌だって言ってる訳じゃない。皆と遊びに行くのだって嬉しいと思うけどさ…」
そう言いながら、少しだけ冬樹の表情が和らいだのでホッとする雅耶だったが、次の瞬間…冬樹は再び表情をキツくして言った。
「でも、やり方が気に食わない。長瀬とグルになって強引に断れない状況に持っていくとかさ」
「…ごめん。それは本当に悪かったと思ってるよ…」



すっかり、しょんぼりして下を向いてしまった雅耶に。
(まぁ、雅耶自身も強引に長瀬に押し切られたんだろうけどな…)
冬樹は小さく息を吐いた。
(雅耶のことだ…。きっと一度は『やめよう』…と言ってくれたんだと思うし…)
そう考えると、雅耶にいつまでもプリプリしているのも可哀想かな?…と、思えてきた。

「じゃあ…かき氷」

冬樹は表情を緩めると、ポツリ…と呟いた。
「…え?」
「かき氷で手を打ってやるよ」
驚いて顔を上げている雅耶に、冬樹は、はにかみながら言った。
「お…おうっ!!りょーかいっ」

途端に嬉しそうな笑顔を見せる雅耶に。
冬樹は思わず、つられて微笑んで見せるのだった。

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