ツインクロス
それから数日後。

「………」
ガタン、ゴトン…と、断続的に音を立て続ける電車に揺られながら、冬樹は車窓から見える流れてゆく景色をただ…ぼーっと眺めていた。

「冬樹チャンーっ?元気ないよっ!!テンション上げて上げてーっ!!」

長瀬が横の四人掛けのボックスシートの上から顔を出して声を掛けて来る。
冬樹が座っているのは、ドア横にだけ設置されている二人掛けのいわゆる普通のロングシート部分で、長瀬達のいるボックスシート側に雅耶が並んで座っていた。すっかり旅行気分でテンションの高い長瀬を、冬樹はチラリと横目で見ると、ワザと反対側を向いて溜息を吐いた。
そんな不機嫌全開な冬樹の様子を隣で心配げに見詰めながらも、雅耶は先程からテンションの高すぎる長瀬に小さく注意を入れた。

「おい…あんまり騒ぐなよ。他の乗客に迷惑だろ?」
「はーい!雅耶センセー♪気を付けマース」
「…誰が先生だ…」

相変わらずな長瀬に、雅耶も思わず溜息を吐くのだった。


この日、冬樹と雅耶をはじめ、長瀬を含む同じクラスの仲間総勢6名は海水浴に行く為、海へと向かっていた。

(マジでありえない…)

冬樹の不機嫌は当然のことだった。
友人と海水浴だなんて、今の冬樹にとっては『危険行為』以外の何モノでもない。前々から「海に行こう」と、長瀬に誘われてはいたのだが、ずっと断り続けていたのだから。
だが、今朝になって突然、家に長瀬と雅耶が押し掛けて来て、強引に連れ出されてしまったのだ。

『勝手に行けよ。オレは一緒に行くなんて言ってないだろっ?』

早朝から叩き起こされて不機嫌一杯の冬樹に。
長瀬は『そんなこと言わないでー』…と白々しく泣きついて来た。
『このままじゃ待ち合わせ時間に遅れちゃう』だの『皆楽しみに待ってるのに』だの言って、まるで遅れたら全部オレのせいだとでも言うように…。

(あんな強引な手段に折れてしまったオレも悪いんだけどな…)

それさえも、計画的だったのは見え見えなのだ。
バイトが休みの日をしっかり狙って来ているのも明らかで…。
その辺の情報を知っている雅耶が、ちゃっかり長瀬の協力者になっている所にも不満が一杯溜まっている冬樹だった。
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